2011年4月15日金曜日

【学習1–5】韻




ラップを形成する核となる要素は、大きく分けて下の3つです。
「内容(歌詞、content)」
「歌唱(フロウ、flow)」
「韻(ライム、rhyme)」

ここでは、要素の1つである韻について解説をします。


何を韻を踏んだと見なすかは、人によって少し異なる場合がありますが、
ほとんどの人が韻を韻と認識するための要素は、「複数の言葉が共通点をもつ」ことです。
そして、その共通点とは、おもに「母音の一致」です

「ばなな」と「あたま」を例にとって考えてみましょう。
「ば・な・な」も「あ・た・ま」も、母音だけでつづればどちらも「あ・あ・あ(a・a・a)」です。
つまり、この2つは母音が一致しており、韻として用いることができるわけです。

キングギドラの「見まわそう」から、ZEEBRA(ジブラ)の最初の4小節を見てみましょう。


(0:42から)

超常現象 巻き起こし
阻止するこの現状
まるで外は戦場 そこら中が炎上
そろそろクールなナイスガイは返上
(図1)


この場合、「現象」、「現状」、「戦場」、「炎上」、「返上」が韻にあたります。
詳しく書き直せば「げん・しょう」、「げん・じょう」、「せん・じょう」、
「えん・じょう」、「へん・じょう」となるように、どれも2音節の簡単な言葉です。


もう1曲。「ザ・グレート・アマチュアリズム」から、宇多丸の最初の4小節を見てみましょう。


(2:35から)

持ってるヤツに持ってないヤツが
たまには勝つと思ってたいヤツ
値段もロゴもドデカいシャツは
着ないでラクしてモテたいヤツ
(図2)


このラップの韻は、「お・え・あい・あう」という4つの音節で構成されています。
また、韻の位置が1、2小節目と3,4小節目で少し異なっている点にも注目してください。
その変化が、単なる韻の繰り返しとは違って、上手いラップだとされるコツなのだと思います。

2011年3月30日水曜日

【学習1–4】音節


拍を分割して言葉を詰め込むためには、言葉の「数」の違いを知る必要があります。
1つは「見た目の文字数」、もう1つは「実際に口に出して言ったときの発音数」です。
そして、後者を音節(シラブル、syllable)といいます。



たとえば「ばなな」と「しんかんせん」という言葉を考えてみます。
前者の「ばなな」は、字数も発音数も「ば・な・な」と3つです。
一方、「しんかんせん」の文字数は6つですが、発音数は「しん・かん・せん」の3つです。
つまり、視覚的には文字数が多いように見えても、実際の発音数は多くない、という場合があるわけです。

これは後述することになりますが、文字数と発音数が違うことは、ただ数が異なるだけでなく、
聴き心地の良さも同時にもちます。つまり、「ば・な・な」と言うより「しん・かん・せん」と言ったほうが聴き心地が良い。
ヒップホップも、その言葉自体が「ひっ・ぷ・ほっ・ぷ」あるいは「ひっ(ぷ)・ほっ(ぷ)」と、少ない発音数です。
ライムスターの「WE LOVE HIP HOP」のコーラスでは、2音節で発音されています。


(0:09から)

We love Hip Hop
Do you like Hip Hop?
賛同者たちゃ Put your hands up!
して言えよ Yeah!

2011年3月23日水曜日

【学習1–3】拍の分割


4ビート、8ビート、16ビート

前回の『イッサイガッサイ」のダイアグラムを見れば分かるように、
たいていのラップは1拍の中に言葉を複数並べています。
(もちろん、ほとんどのJ-POPも同様です。)
1つの長細い箱に言葉を詰め込んでいるようなイメージです。

しかし、このイメージは正確ではありません。
より正確には、1つの長細い箱を更に分割して複数の箱にして、
それぞれの箱に言葉を入れているイメージが適当です。
言いかえれば、1拍を細かく分けたうえで、言葉を当てはめています。

よく「4ビート(フォービート)」や「8ビート(エイトビート)」などの
言葉を聞くことがあると思いますが、これはその分割の度合いのことです。

たとえば、
8ビート:1拍を2分割したもの(4拍×2分割)
16ビート:1拍を4分割したもの(4拍×4分割)
などです(図1、図2)。


16ビートのラップ

最後に、16ビートを上手く乗りこなしているラッパーとして、
Mummy-D(Rhymester、ライムスター)を聴いてみます。
『グレイゾーン』に収録された「ザ・グレート・アマチュアリズム」から、
彼の最初の4小節を取り上げてみました。
個人的には、3小節目の「(ぱら)さい(と)」と、
4小節目の「(くたばら)ない」の強調に、16ビートの気持ちよさを感じます。


(0:50から)

俺の名前はトーシロー よく聞きな
道行くトーシロー つまり同志よ
素晴らしい 音楽史のパラサイト
ヒップホップは まだくたばらない
(図3)

2011年3月6日日曜日

【学習1–2】フロウ・ダイアグラム



拍と小節について、ここまでは文章によって説明してきましたが、
ここでは図を用いて説明し直します。図は文章よりも理解を助けてくれるはずです。

図は、『How To Rap』で使われている「フロウ・ダイアグラム」(※図1)を参照させてもらいました。
以下、今後のエントリでもダイアグラムを利用して話を進めていくつもりです。

まず、このダイアグラムの説明をします。
最上段に書かれている数字が、拍(拍子、beat)の数です
1行が1小節と対応しています。

前回取り上げた「ポリリズム」をこのダイアグラムに置いて、確認してみましょう(図2)。

■ラップの配置、ダイアグラムのコツ

では、次にこのダイアグラムにラップを配置してみましょう。
KREVA(クレバ)の「イッサイガッサイ」から、1バースの最初の2小節を取り上げます。


(0:37から)

リゾート気分味わってるはずの
理想の自分とは程遠い
(図3)


「イッサイガッサイ」は「ポリリズム」と異なって、1つの拍の中に複数の言葉が入っています。
なので、最初はダイアグラムにどのように配置するか迷うと思いますが、何度か曲を聞き直しながら頑張ってみてください。
コツとしては、「各小節の始まり(表の左端)の言葉を見つけること」と「各拍の始まり(があればそれ)を見つけること」です。
具体的には、リゾートの「り」は小節の頭ではなく少し前に発音されていて、
その後の「ぞ」から1拍目が始まることに気づけば、少し楽になるはずです。

このように、まず拍と小節を理解すること、次に曲のリズムをダイアグラムに配置していけること。
この2つをクリアすることが、最終的にはラップを演奏するための一番の近道になるはずです。

2011年2月27日日曜日

【学習1–1】拍と小節



ラップを演奏するための近道は、まず音楽についての基礎的な知識を得ることです。

【学習1】では、

・拍と小節の数え方
・ダイアグラムの見方
・韻の定義

を覚えることによって、ラップをするための土台となる「リズム」の基礎を覚えていきます。

拍について

まず、曲を1つ用意してください。どんな曲でも構いません。
次にその曲に合わせて手拍子をしてみてください。その手拍子が1拍です。


分かりやすいように、手拍子と完全に同期するメロディとして、
パフューム「ポリリズム」を例に挙げます。


(0:07から)

とても大事な
キミの想いは
無駄にならない
世界は廻る
(※表1。譜割りについては、PDFを参照。)

イントロの「とてもだいじな~」の箇所が、一文字と手拍子がそれぞれ合うはずです。
この拍のことを英語では「beat」と言います。


よく聞く「BPM」という言葉は「beat par minutes」の略で、「1分間に拍はいくつあるか」という意味です。
「ポリリズム」に合わせて1分間手を叩いたとして、もし130回叩いたのなら、「ポリリズム」のBPMは130です(bpm=130)。


このように、拍は数えることができます。
「ポリリズム」のイントロを例にとれば、最初の休止が1拍目。
次の「と」が2拍目。「て」が3拍目。「も」が4拍目となります。


■小節について

では、その次の「だ」は5拍目、「い」は6拍目、「じ」は7拍目と、拍は無限に増えていくのでしょうか?

一般的には、そのように考えることはありません。
というのも、たいていの曲は4拍をひとつの区切り、1小節として数えるからです。
つまり、手拍子4回が1小節分に相当します。
例に戻せば、「だ」は5拍目でなく、次の小節(2小節目)の1拍目となるわけです。
なので、「きみの」は3小節目、「想いは」が4小節目となり、このイントロは全部で8小節と数えることができます。

ちなみに、全ての曲が4拍=1小節というわけではありません。
たとえば童謡の「ぞうさん」は3拍で1小節となりますし、
ジャズのスタンダードとして有名な「Take Five」は、その名の通り5拍で1小節です。
手拍子をして計ってみると、より分かりやすいです(「Take Five」は3拍+2拍のイメージで叩くとよりリズムに乗れます)。



2011年2月23日水曜日

はじめに

現在、日本では雑誌・ブログを問わず、日本語ラップに言及した記事は昔と比べて圧倒的に増えました。

とくに、「いま」を重要視するヒップホップはインターネットとの相性がよく、成功を夢見るラッパー・トラックメーカーがyoutubeに音源をアップし、これらをまとめて紹介するサイト—「日本語ラップ.com日本語ラップ」や「日本語ラップニュース BLOG」が手助けする。という、ある種の協力関係も整っています。

なので、日本語ラップに少しでも興味を持ち毎日数10個のニュースや音源に触れていれば、その花を咲かすことは容易でしょう。

そこで、このように日本語ラップが熟成した今なら、トラックやリリックを中心とした批評だけではなく、ラップそのもののテクニックについて研究したサイトを作れるのではないか。
つまり、ピアノやギターやボーカルのテクニックを公開する書籍・サイトがあるように、ラップを一つの「技術」として認め、これを分析・研究してみよう。いうことで始めたのが、このブログです。

ちなみに私は、趣味で実際にラップをしています(サイトはこちらへ)。
しかし、自分で言うのも辛いですが、いわゆるスキルはありません。なので、この研究を通して自身のスキルも高めることが第2の目標です。

最後に、アメリカではラップをハウツーとして教える、その名も『How to Rap』という書籍が去年発売されています。
このブログが日本版『How to Rap』となるように頑張りますので、これからよろしくお願いいたします。